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企業の農業参入「驚きの事実5選」


近年、事業の多角化やブランディング、サステナビリティ目標の達成などのため、農業分野に関心を寄せる企業が著しく増えています。しかし、多くの経営者は「農業参入は規制が多くて困難だ」という先入観を抱いているのではないでしょうか。

 

もし、農業参入を阻む最大の壁が「法律」ではなく、たった一つの「誤解」にあるとしたらどうでしょう?

 

本稿では、企業の農業参入を可能にする、「5つの驚きの事実」を解説します。これらは、多くの企業が見過ごしている、成功への近道です。



01 所有はムリでも賃貸なら全国どこでも参入可能 


企業の農業参入を検討する際、「農地の所有」と「農地の貸借(賃貸)」の根本的な違い知っておく必要があります。

 

まず、農地を所有できるのは、「農地所有適格法人」に限られます。農地所有適格法人を設立するには、役員の過半数が農業に常時従事するなど、一般法人にとっては厳しい要件が課されています。

 

一方で、農地を賃貸するのであれば、この要件は不要です。つまり、一般法人が、全国どこでも農業を始めることができるのです。ここで言う「一般法人」とは、ごく普通の株式会社や合同会社などを指します。

 

つまり、一般法人であっても、法人格を一切変更することないため、明日からでも農業事業を開始できるということです。これは、多くの経営者が想定する農業参入のイメージを根底から覆すのではないかと思います。

  


02 契約の必須条件は「地域コミュニティへの参加」


一般法人が農地を借りる際に賃貸借契約書に明記しなければならないことがあります。それは、「地域における適切な役割分担」を果たすという約束です。

 

具体的には、契約書に以下の活動への参画を明記します。

 

• 集落での話し合いへの参加

• 農道や水路の維持活動への参画

 

この約束は、単に社会的責任を負うという意味にとどまらず、事業ライセンスを得るためにあるともいえます。

日本の農業は、生産活動の場であると同時に、地域コミュニティ上になりたっているという、日本の慣習を壊さないための配慮かもしれません。

 

ビジネスとして農業に参入する場合も、地域の一員としての責任を果たすことが法的にも求められるのです。


03 たった1人。「農業従事者」の要件は意外とミニマム


一般法人が農地を借りる場合の人的要件は、驚くほどミニマムに設定されています。ですから「会社全体で農業に取り組む必要があるのか?」という心配は無用です。

 

求められるのは、「業務執行役員又は重要な使用人が1人以上農業に常時従事すること」。

 

これは、事業部長やプロジェクトマネージャー、あるいは専門の担当者一人を指名すれば良いことを意味します。既存の経営体制を根幹から変える必要はないのです。

 

ここで注目すべきは、この「たった一人」の役割です。この人物は、単なる現場の作業責任者ではありません。

前述の「地域コミュニティへの参加」という要件を満たすための、極めて重要な外交官であり、地域との架け橋となる存在です。法的な要件を同時に満たす、キーパーソンとして位置づけるべきでしょう。

 

また、「常時従事」とは、形式的な役割ではなく、事業への継続的かつ真剣なコミットメントが求められています。


04 撤退ルールも明確。土地を適切に使わなければ契約解除 


企業の農業参入に対して土地所有者や地域社会が抱く最大の懸念は、「途中で事業を放棄され、農地が荒れてしまうのではないか」という点です。

 

この不安を払拭するため、一般法人との賃貸契約には、強力なセーフティネットが組み込まれています。

それは、「農地を適切に利用しない場合に契約を解除する」という解除条件の明記です。

 

 

この「適切な利用」には、単に作物を育てるだけでなく、「農地のすべてを効率的に利用すること」や、「周辺の農地利用に支障をきたさないこと」といった、より広い責任が含まれます。これはペナルティではなく、信頼を醸成するための「機能」です。

 

この明確なルールがあるからこそ、土地所有者は安心して、大切な資産である農地を企業という新たなプレイヤーに貸し出すことができるのです。


05 「農業」の定義は広い。農家民宿も関連事業に


 

最後の事実は、農地を「所有」できる農地所有適格法人の事業要件に関するものです。これは現代農業のビジネスモデルを想像させる内容となっています。

 

まず、この法人は、売上高の過半が農業およびその「関連事業」でなければなりません。

 

驚くべきは、この「関連事業」の定義の広さです。これこそが、政府が推奨する「6次産業化」のモデルなのです。政府はいま、生産(1次)、加工(2次)、販売・サービス(3次)まで一体的に行い、農業の付加価値を高めようとしています。

 

関連事業には、以下のようなものが含まれます。

• 農畜産物の製造・加工

• 農畜産物の貯蔵、運搬、販売

• 農業生産に必要な資材の製造

• 農村滞在型余暇活動に利用される施設の設置・運営等(例:農家民宿)

 

農家民宿のような観光サービス業までもが「農業」の範疇に含まれるという事実は、農業ビジネスが、畑でモノを作るだけの産業を、体験や文化を提供する総合プロデュース業へと進化させようという思惑が透けてみえます。


最後に・・・


企業の農業参入において、農地を「所有」する道は依然として険しいものです。しかし、視点を変え、「賃貸」から始めるれば、その扉が驚くほど大きく、そして合理的なルールのもとに開かれていることをご理解いただけたのではないかと思います。

 

参入のハードルが低い「賃貸」は、単なるスタート地点ではありません。それは、農産物の加工、販売、さらには農家民宿のような体験サービスまで展開する、本格的な「6次産業化」ビジネスへの玄関なのです。

 

これらのルールは、単なる規制ではなく、成功へのロードマップです。地域と共生し、1人のキーパーソンに権限を与え、賃貸から始める。この青写真をもとに、貴社が日本の農業に革新をもたらすことができるかもしれません。